免罪符
日本の医療・介護行政は、いわゆる「社会保障財源」によって、まかなわれている。もちろん、馬鹿バカしいぐらいに当たり前の話で、ここには「健康保険(主に地方自治体が行なう医療補償)」は含まないし「年金」なども含まれない。治療や介護や現役後の補償やらで必要となる費用へ、直接支払われるものではなく支援のためのものだから、この「社会保障財源」のありかたが、欧米などとは全く違うし、これを横に並べて消費税を議論するのは不可能で、それをいえるのは無知だけだ。
むしろ、教会の慈善事業のほうが、直感的には近いだろう。
そこで、全体の95%は「社会保障財源」が、残り5%が直接の寄付による現金だと、ここでは考えておこう。
100兆4,300億円($1T)という、目の玉が飛び出しそうな、「社会保障財源」のうち、総額の56.6%(56兆8,740億円)を「社会保険料」が占めていて、30.9%(31兆368億円)を「公費負担」が占めている。いずれも、公開されている2007年のデータで、経済が絶好調のときの数字だ。
このうち「社会保険料」は、被保険者と事業主で折半するから、俗に社会保障は、国民と企業と国のそれぞれが、およそ三割づつ負担しているとされるのは、まあ、そんなところから来ていて、直接の現金による負担は除いてという意味なんだが、日本人にすれば、これは当たり前のことだね。
残り10%は、行政の資産収入などが2%、その他収入の8%でまかなわれていて、10%といっても、額にするとおよそ10兆円なのだから、トンチンカンな首相によれば、消費税率5%に匹敵するわけで、資産収入やら、その他収入とは、いったい何なんだろう? と気になるところではあるが、それはそれ、これはこれとしておこう。
でもね「社会保険料」なんて払ったことないよ、という人がいるかもしれないが、給与明細があるなら、きちんと項目もあるからウソじゃない。その内訳には、40歳以上なら介護保険料、さらに65歳以上なら高齢者保険料も含まれていて、制度が始まった当初、明細では別項目となっていたが、途中、法改正があって「項目を分けないことが望ましい」と変わり、省令だかなんだかによれば、分けてはならないと指導されるせいで、内訳はわかりづらくなっている。
例えば、介護保険料は介護に使われていると考えるのは、ある意味正しいが全くの間違いだ。介護保険は「社会保障財源」の一部財源なのだから、ひとつにまとめられた後、様々な事業で予算がつけられて、介護にも使われているというほうが正しい。国民や企業が負担しているのは財源であって、事業費という予算ではないわけだ。ここらあたりを指して、「特別会計はドンブリ勘定だ」といわれるゆえんとなっている。
だからもちろん、そういう意味で、事業者が被保険者という国民と、同じ額を負担しているということではない。保険料は財源ごとの制度によって負担割合が微妙に違いがあるからで、実際のところ、「社会保険料」収入は事業者負担よりも、被保険者負担のほうが2兆円ほど多い。
さてここで、今話題となっているのは「公費負担」の部分で、その内訳は、「国庫負担」が22.1%(22兆1,900億円)、「その他公費」が8.8%(8兆8,468億円)である。ウソかホントか知らないが、この「国庫負担」のほぼ全ては、国債の発行という国の借金でまかなわれていて、「その他公費」のほぼ全ては、一般会計での計上となっている。
他国の医療・介護の社会制度が、どういったシステムなのか、不勉強なのでよく知らないが、国家予算として比較するときは、おそらく、この8.8%の部分だけが、比較されているものだと思っていい。
国民の側からみれば、現金か保険料か税かを区別するなど、意味のないことなので、ここまでの全てをぐるとまとめて、ひらたく云えば、国民負担は41.4%、事業主負担は25.7%、国の借金で21.0%、その他11.9%というのが、負担割合の現状だ。
ちなみに、この借金の金利は、バブルの頃の長期20年物の償還が2007年から始まっていて、これが高金利のせいでそれまでとの差が5%程度あるので、これらの負担割合が変わらなければ、毎年金利だけで、1兆500億円づつ増えることになる。
財源上の問題で困っている「毎年増える1兆円」は、何も年寄りがむやみやたらと増えるからではなくて、この金利を支払うための財源の話だ。誰が考えてもわかるとおり、年寄りの数が増え続けるのに1兆円がかかるなら、消費税は毎年上げないといけないが、そういう話ではないから、財政再建が可能なわけだね。
もちろん、これは社会保険料というセクションの財政課題であって、国家財政の話ではない。海外市場が指摘しているのは、これとは違って、特別会計が高コスト体質であるのは明らかなのに、それを削減できないのは、本当のところ、ギリシャのように不正財政を隠蔽しているのではないかという不安感からで、財源と予算の区別さえできないような、青い目をした自称エコノミストで、ウィン・アンド・ウィンのアホンダラを除けば、むしろ増税はマイナス・アナウンスだとさえいえる。
ムダがあるとかないとかは瑣末な議論で関係が無い、削減できないのは本当のところ不正の隠蔽ではないのか、その不安を明解に晴らす制度システムを持っていないところが事の本質で、特別会計に切りこまなければ、国際的な信用を失ってしまうことが論点なのだよ。
事実から目をそむけて、自分探しと格調高く夢ばかりだから、政府のプロバガンダに乗せられ易く、神経だけで脳ミソがなくて数だけ多いと『歴史から評価』されるってもので、どこにも秘密なんてありゃしない、公の資料と頭を使えば、引き換えに失う代償の大きさに気づかない方がイカレテいる。
国が運営する教会は、高コスト体質で不正経理が隠されているかも知れず、にもかかわらず大統領が強制的に、もっと寄付しろと言ったとき、慈善事業なのだから当然だと思うのか、えっいやだなあと感じるのか、こういう例えを持ち出してくれば、日本の消費税論議が、少しは誰にでも、みえてくるようになるのかな?
慈善事業なのだから、消費税増税は当然だよ。でも、今のままでは、信用を失うだけだから反対だ。その前に、やるべきことがあるんじゃないの? というのが、むしろ本筋だろ? それを、人の話を雰囲気だけで聞く財政オンチからすれば、わがままだとでもいうのかい?
この消費税が『免罪符』にみえるのは、わたしだけだろうか。
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